保存用

中学校の友人にオタクがいた。
小生意気なヤツで、だれかれ構わず口喧嘩を吹っかけては、いろんな人にぶん殴られていた。

ボクも一回ぶん殴ったことがある。
親と一緒に彼の家まで謝りに行った。
そしたら、彼のお父さんが出てきて「こんな生意気なヤツはどんどんぶん殴ってやってください」と言われたので強烈に印象に残っている。


そんなことがありながらも、ボクが持っている元来のオタク気質もあり、彼とはなんだか気が合ってよく遊んでいた。


で、彼の家に遊びに行った時に、とても驚いたことがあったのを、ふと思い出したので書いておこうと思う。

ボクが中学生のときは、まだ「オタク」という言葉に市民権はなかった。
バラエティ番組にアイドルオタクを売りにしたタレントは出ていたけれど。

彼の部屋に行って驚いたのは、そのプラモデルやガレージキット、マンガの多さではない。
プラモデルもガレージキットもマンガも、その全てが2組ずつあるということに、とても驚いたのだ。

つまり、プラモデルやガレージキットに関して言えば1つは普通に組み立てて飾ってあるが、もう一つは箱さえ開けていない。マンガにいたっては本棚にあるものと全く同じものが押入れの中にもあるのだ。

「保存用だよ」という彼の「そんなの当然じゃん」的なオーラに気おされて、その時は「そういうモノなのかなぁ」と思ったけれど、今思えば、一体何のための保存用なのか、きちんと問い詰めて置けばよかった。

その保存用を、将来的に売ってやろうとかいう企みがあったようにも思えなかったし、「予備」として持っているわけでもなさそうだった。



高校時代に街中でばったり会ったのが最後で、それ以来彼とは連絡を取っていない。
その時の彼は、頭を剃り上げて、菊の紋が入った迷彩服を着ていて、どこから見てもパーフェクトに右翼だった。

今はどこで何をしているのだろう。