丁寧に生きていくということ

ぼくには数字が風景に見える

ぼくには数字が風景に見える

自閉症の著者によってかかれた半生記。

自閉症の人たちは、一般的に対人コミュニケーションが苦手で、相手の感情を推し量ったり、自分の感情を伝えたりすることが得意ではない。また、著者ダニエルは、ダスティン・ホフマン主演の映画「レイマン」の主人公のように「サヴァン症候群」でもある。数字を見るとそれが色彩や形を伴って脳裏に現れてくるという「共感覚」という特殊な能力の持ち主であり、驚異的な記憶力や計算力を持っている。

そんな彼らにとって「この世界はどのように見えているのだろう」ということにボクは強い興味と恐れがあった。コミュニケーションが苦手だというだけで、からかわれ、恐れられ、時には差別までされる自閉症の人たちにとって、この世の中は暗く閉ざされたものではないのか。

ダニエルは幼少期からの思いでを淡々とした筆致で綴っている。幼い頃に彼が経験した苛立ちや、周囲からの理解の無い態度。しかし一方で、全力で彼に愛を注ぐ両親、幼い弟や妹たち。

やや乱暴な言い方ではあるけれど、自閉症のため、隠喩や複雑な修辞法が苦手な彼の文章はとても簡潔でほとんど飾り気が無い。幼い頃に感じていた孤独感や戸惑い。家族に訪れる危機。学校で受けるいじめ。そんな苦しみも彼は淡々と著し続ける。だが、そこにどれほどつらい状況や悲しい情景が描かれていようとも、その飾り気の無い文章から受けるのは、まっすぐに事実を受け止めてきた誠実さと穏やかさだ。

ダニエルが人生という冒険に対して貫いてきた態度は、ぼくらに「丁寧に生きていく」ということの素晴らしさを教えてくれる。